子供たちにとって適切なスクリーンタイムとその影響
昨日、電車の中で、3〜4歳くらいの男の子と一緒にいるお父さんを見かけました。以前にも見たことがある親子です。その親子は地下鉄に乗って、1駅だけで降ります。ここまでは特に珍しくはありません。驚くのは、その2分間の乗車中、毎回お父さんがスマートフォンを渡して、息子に動画を見せていることです。
私が子供だった頃、家族での長距離ドライブにスクリーンなんてありませんでした。本を読んだり、会話をしたり、小さなマグネット式のゲームをしたりして過ごしていました。弟が携帯型ゲーム機を持ち始めたのはもう少し後で、しかもそれは一部の時間だけ。私たちは16時間のドライブ中に、映画もテレビもSNSもなく、ただ自分の思考、家族、そして本や簡単なゲームとともに時間を過ごしていました。弟と一緒にゲームを作ったり、家族4人で政治や宗教、時事問題について白熱した議論を交わしたり。窓の外を眺めながら、宇宙のこと、生きる意味、友達との喧嘩について考えたりもしました。父と一緒に歌って、親の世代や自分の世代の曲を覚えた思い出もあります。笑って、話して、議論して、旅のたびに家族との絆が深まり、長時間のドライブがむしろ楽しみになるほどでした。
今、もし娘と一緒に16時間の旅をするなら、おそらく映画を1〜2本は見るでしょう。でも、スクリーンなしの時間も設けます。かつては、大人も子供も、自分で考え、遊びを生み出し、深い話やふざけた会話を楽しむことが勧められていました。今では、それが受け身の娯楽や“ドゥームスクロール(延々とSNSなどを見続けること)”に取って代わられています。
子供にとって、適切なスクリーンタイムはむしろ良い影響をもたらすという研究もあります。特に、週に数回、30分以内のノンフィクションのコンテンツを視聴することは、学習面での成果につながることが示されています。また、年齢と内容によっては、ビデオゲームが手と目の協調や論理的思考力を高めるという研究もあります。
しかし、過剰なスクリーンタイムがもたらす悪影響を示す研究はそれ以上に多くあります。アメリカ児童青年精神医学会によると、スクリーンタイムの過多による主な悪影響には以下が含まれます。
- 睡眠障害
- 成績の低下
- 体重増加
- 情緒不安定
- 自尊心の低下、ボディイメージの問題
- 不安やうつ症状
- 暴力やリスクの高い行動への接触
- 性的なコンテンツへの接触
- 有害なステレオタイプへの接触
- ネットいじめやオンライン上の危険人物への接触
- 誤った情報への接触
「過剰」とは相対的なもので、推奨されるスクリーンタイムは情報源によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 2歳未満:基本的にスクリーンタイムはなし、もしくは極めて制限的に
- 2〜12歳:平日は1日1時間以内、週末は最大3時間まで。保護者や兄姉と一緒に内容を確認しながら
- ティーンエイジャー:宿題を除き、1日2時間以内。就寝1時間前からはスクリーンタイムを避けるべき
また、スマートフォンを持つ年齢が若いほど、精神的健康に悪影響が出やすいことも分かっています。
私自身は、娘が5歳になるまでは、スクリーンを見せるのは病気のときに限っていました。さらに、娘が幼児だった頃には、自分のスマートフォンを手放して7歳になるまで持たずに過ごしました。娘と過ごす時間に集中し、ゲームや動画で気を紛らわせる誘惑を避けるためです。その結果、外出先でも家の中でも、私は娘とより「今この瞬間」を共有できるようになりました。私たちはたくさん会話をし、娘の興味や好きなことを深く理解することができました。今でも電車では、スマホはバッグやポケットにしまい、ちょっとした会話を楽しみます。学校からの帰り道に娘と歩きながら過ごす時間は、私の一日の中でも特に好きな時間です。娘が10分以上も話し続けることもあります。内容はささいなことかもしれませんが、娘の様子や学校生活の様子、心に抱えていることを知る貴重な手がかりになります。そして何よりも、私が「話を聞く準備ができている」という姿勢を娘に伝えることができます。娘にとって、私がスマホよりも「彼女の話」に耳を傾けていると感じることは、これから思春期に入るうえでとても大切な感覚です。
もちろん、今では以前よりもスクリーンタイムは増えました。友達とビデオ通話をしたり、マインクラフトをしたり、自作の本を書いたり、レゴ作品のアイデア動画を見たりしています。家族で映画を観ることもありますし、一緒にお気に入りの番組を何話か連続で観ることもあります。
年齢的に、ある程度のスクリーンタイムが必要であることも理解しています。友達と話題を共有するためには、音楽、映画、ゲームといったポップカルチャーに触れることは大切です。創造力を育む年齢でもあり、マインクラフトのようなゲームは想像力を発揮する良い手段となります。家族で映画を観る時間は、ストーリーを一緒に楽しみながらつながりを深める貴重な時間でもあります。そして現実的には、私たち親も疲れているときには、何話か連続で観ることが気軽な休息方法になるのです。
とはいえ、やはり「やりすぎ」は存在します。家族でのスクリーンタイムが多すぎたときはすぐに分かります。口論が増えたり、気分が不安定になったり、疲れがたまったり。それは大人よりも子供により強く表れます。そんなときは一旦ストップ。完全に禁止するわけではありませんが、「今から1~2時間はスクリーンなしにしよう」と明確に伝えます。パズルをしたり、散歩に出たり、ボードゲームをしたり、本を読んだり。そして、家族全員で、毎月第1土曜日をスクリーンタイム無しにするという新しい習慣も始めました。
スクリーンタイムは、完全になくすことはできませんし、メリットもあります。でも、他のすべてのことと同じように、「節度」と「意識」が大切です。スクリーンは依存性があることが証明されています。そのため、制限を設けると強い反発や争いにつながることもあります。人によっては、一度「完全に断つ(コールドターキー)」ことでリセットする方が合っている場合もありますし、段階的に減らすほうが良い場合もあります。大切なのは、子供の健やかな成長、発達、そして心の健康を守るために、健全なルールと習慣を家庭でつくっていくことです。
著者プロフィール
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Darby - 初中等部・スクール長 & Head of Learning (アメリカ)
CGKインターナショナルスクール初中等部・スクール長 兼 Head of Learning。アメリカ・ニューヨーク出身。
自身も国際バカロレアIB DPの卒業生であり、30年以上にわたって、子どもたちへの教育とIB教育へ情熱を注ぐ。教育学修士号を取得。