国際バカロレアIB PYPのUOI授業紹介(5歳児)Vol.1 - CGKインターナショナルスクール・プリスクール
CGKインターナショナルスクールは今年の4月より、国際バカロレアIBカリキュラムを本格的に取り入れています。「IBとは?」と聞かれた時、とても一言では語ることができないほど奥が深く、本当に素晴らしい教育方針だと身をもって感じています。一つ簡単にお伝えをすることができるとすれば、IBの教育は、先生が前に立ち道筋を立てながら答えを教える、俗に言う「レクチャースタイル」ではないということです。
私が担任する5歳児のクラスにおいても、保育者たちは、いかに子供たちが夢中になっていることを伸ばしながら、また新たな興味を引き出し、それをIBの探究の単元(UOI)の内容に繋げるかを日々考えています。子供たちの感受性や想像力はとても豊かで、その柔軟性のある考え方に大人の私たちも驚かされる毎日です。例えば今まで経験をしたこともない新しい発見をした時でも、子供たち自身が今まで培ってきた似たような出来事や知識に繋げることがとても得意で、あっという間にそれを自分の経験として吸収をしてしまいます。子供たちは何気なく、大人が「あっ」と驚かされるような発言をし、保育者たちは逆に子供たちから教えられることもたくさんあります。そんな子供たちとの普段の会話のキャッチボールの中で生まれる発見や感動の瞬間に出会えた時、改めて保育士をやっていて良かったと思える瞬間でもあります。
IBの素敵なところは、何よりも子供たちの視点に立ちながらカリキュラムをフレキシブルに考えることができること。大人の都合で考えたり、大人が楽なように子供を誘導してしまうことはせず、いかに子供の探究心を伸ばすことができるかを心がけています。
さて、4月に5歳・年長児クラスに進級をしたSkyクラスの子供たちは、期待いっぱいの初めての国際バカロレア(IB)の探究の単元(UOI)である、
“Where We are in Place and Time (私たちはどのような時代と場所にいるのか)”
に約3ヶ月間取り組みました。Skyの担任3人で考えた、このユニット(単元)を通じて子供たちに体感してほしいテーマである中心的アイデア(central idea)は、
”Everyone has their own roles and responsibilities in their community (それぞれのコミュニティでは各々の役割と責任がある)”
という概念です。これだけを聞くと「とても大きな概念で、到底5,6歳の子供が理解できるわけないのでは?」と年長児には少し難しそうな印象を受けられるかと思います。しかし実際は、そこまで難しいテーマではありません。Skyの先生がこのテーマを選んだのには、いくつかの理由があります。
このテーマを選んだ背景
- CGKインターナショナルスクールは今年4月より関内校も開校し、2校舎に拡大。年中・年長クラスは関内校に移動となった。昨年度まで年少と年中の2年間を馬車道校で過ごしてきたSkyの子供たちにとって、新しい環境でのスクール生活が4月より始まった。
- この新しい環境設定のなかで、CGKだけでなく自分たちが普段過ごしている横浜という地域のコミュニティについて学ぶのにはベストな時期だと考えた。また、一人ひとりそれぞれには役割や責任があるということを改めて実感ができる良い機会だと考えた。
- CGKの初等部やアフタースクールに次年度より進学する子がいることもあり、CGK内でのプリスクール/初等部/アフタースクールという部門を超えた関わり合いを持つことで、身近な場所からそれぞれの役割や責任について子供たちが意識を向ける。その先に、この慣れ親しんだ横浜やその他のコミュニティにも自然と目がいくようにしていきたい。
- 同時に、自分の役割や責任についても考えることにより、子供たちが周りの人とのチームワークを育むことが目的。自分自身も既に様々なコミュニティに属していることに気が付き、役割や責任をきちんと考え実行することで、誰かの役に立っているという概念に繋げたい。
以下 ”Everyone has their own roles and responsibilities in their community (それぞれのコミュニティでは各々の役割と責任がある)” の中心的アイデア(central idea)に沿った活動の取り組みや、それにより子供たちが習得していったスキルなどをご紹介します。
Welcome to Sky Class! / Skyクラスへようこそ!
子供たちは最年長クラスへと進級し、期待で胸が膨らみます。しかし新しい校舎、新しいクラス、新しい先生たち。クラスでの決まり事やルーティーンも最初は何もない状態です。そんなSkyクラスではある時、お友達と過ごす自由時間が楽しく、遊びの時間とレッスン時間の気持ちの切り替えが難しいことがしばらく続きました。もちろん、子供たちが楽しくスクールライフを過ごすことは何よりも大切です。しかし同時に、スクールは集団生活の仕方を学ぶことができる場でもあります。小学校進学に向けても『楽しむときは思いっきり楽しむ』『お話を聞くときはきちんと聞く姿勢をとる』といったメリハリも大切だと考えています。
そこで子供たちに、「みんなが気持ち良くCGKで過ごすことができるにはどうしたらいいと思う?何かいいアイデアはある?」と問いかけてみました。すると子供たちの中で「みんなが納得をするクラスのルールを作る」という結論になりました。これを聞いた時、この『みんなが納得をする』という部分に「なるほどな」と私が納得をしてしまいました。
Sky's Essential Agreement / Skyの子供たちによる契約書づくり
さて、ここからSkyクラスのルール兼契約書を子供たちが自ら作成していきます。ここでは様々な意見が出ました。ある日の日本語の時間では、Learning Center*の活動の中で『クラスの決まりごと』のアイデア出しをするテーブルを一つ設置しました。そこで出たアイデアは、「ひとにやさしくする」「じかんをまもる」「おはなしをきく」「ことばでつたえる」「まじめな時間とあそぶ時間」など、子供たち自らが考えたルールを思い思いにスケッチブックに文字や絵を描き記していました。
*Learning Center: 4~6つほどのそれぞれのテーブルに別々のアクティビティを設置し、子供たちは決まった時間ごとにローテーションで移動をすることで、教科横断型の学習ができる活動
後日、英語の時間に、子供たちが考えたルールをみんなの前で発表を行ったSkyさん。たくさん出たルールのうち、どれを採用すべきかを子供たちが考え、おもちゃのGSTARを使って投票をしていきます。こうして子供たちによりクラスのルールが決まり、そこに直筆でサインをすることで、Skyクラスのルール契約書の締結完了です。子供たちは単に先生が決めたルールに従うのではなく、自分たちのアイデアによりクラスのルールを決めたからこそ、この決まりごとが活きるのだと感じました。そして子供たちはこの取り組みにより、クラス内での個人の役割(ランチ前にテーブルを拭く係、床の掃き掃除をする係、シンクまわりをきれいに拭く係、散歩の際に先頭でみんなをまとめるリーダーの係など)にも精力的に挑戦をするようになりました。Essential Agreementを結ぶことにより、コミュニティやチームワークを学ぶ第一段階へと繋がりました。
Scavenger Hunt Time! / チームでの宝探しミッション
『コミュニティ』と『責任』について少しずつ学んできたSkyクラスは、地域や学校、家庭の中でなど、自分たちの属するコミュニティ内で、どのような役割や責任があるのかを考えてきました。そこでSkyクラスは、普段何気なく遊びに行く山下公園で、初めてScavenger hunt(宝探し)の課外ミッションに挑戦をしました。この日、子供たちは各グループ6人ずつの4つのチームに分かれ、そのグループの中で役割を予め決めました。
【ヒントの解読をする人】【その答えの場所をカメラで写真を撮る人】【時計で残り時間を確認する人】【地図を読む人】【その場所まで先導する人】と役割はそれぞれで、各メンバーはチームにとって重要な責任を担っていました。30分以内に12枚すべての写真を撮るためには、お互いによくコミュニケーションをとり、友達のアイデアに耳を傾けることが大切です。
結果的に、時間内に12枚全ての写真を撮ることが出来たチームもあれば、それが叶わなかったチームもありました。しかしこの体験から子供たちは、『各々の役割に責任を持って取り組むこと』、そして『チームとして協力し合うこと』が必要だという貴重な経験をすることが出来たと感じます。写真を全て撮ることが出来なかったグループはとても悔しそうでしたが、「できなかったね」で終わるのではなく、「どうしたら全部撮ることができたのか」をグループ内で話し合う様子も見られました。協力なくしてこの課外ミッションはクリアできないという経験を通じ、子供たちはチームワークの大切さを実感しました。これが大人になった時も、目標達成のためにはコミュニティの中で力を合わせることが大切だということをふと思い出してくれたら、保育者としては嬉しいです。
Every teacher has their own roles and responsibilities in CGK / CGKの先生もそれぞれの役割と責任がある
山下公園での宝探しを終えたSkyクラスの子供たち。引き続き『チームワークの大切さ』を学ぶことに加え、みんなが属している『CGKのコミュニティ』についても考える機会を持ちました。
ある日、キャンパスごとの先生の写真を並べてみると、関内校にはそれぞれプリスクール/初等部/アフタースクールの先生たちがいることが、写真の中の服装から視覚的に分かりました。そしてプリスクールの中でも、関内校ではMountain(年中)とSky(年長)クラスに分かれています。実はここで初めて、きちんと「コミュニティ」という言葉に触れました。
「大人数・少人数関係なく、CGKではいろいろな形で人が集まっているね。それをコミュニティというんだけど、少し難しいかな?」と問いかけてみると、「ぼく分かるよ。好きが同じとか、一緒に集まる仲間ってことでしょ?」と答えてくれるSkyのお友達がいました。また、他のお友達も「うんうん。たとえば同じアニメが好きだったら、それが100人でも10人でも、こみゅにてぃーってことでしょ。」と思っている以上に子供たちがコミュニティの概念を理解していることに驚きました。
さて、コミュニティとは何なのかを改めて考え始めたSkyさんの新たな挑戦が始まりました。それは関内校にいる先生に話しかけ、インタビューをするというものです。インタビューの内容は、子供たちが自ら考えました。これは普段接しているプリスクールの先生だけでなく、関内校にいる初等部やアフタースクールの先生たちにも関わり、CGKにおいての一人ひとりの役割や責任を知ることを目的としています。最初は普段あまり話したことのない先生に話しかける時は少しドキドキしている様子も見られましたが、【Time Keeper(時間を確認する人)】【Note keeper(こたえを書く人) 】【Questioner(質問するひと)】という役割を子供たちそれぞれが持ちながら、山下公園での宝探しゲームのように、チームで協力することを身をもって学んでいきました。
インタビューが終わったSkyさんたちは、今度は先生たちから聞いた内容をまとめ、一人ひとりのプロフィール帳を作成していきます。一文字一文字丁寧に書き上げたり、間違えても消しゴムで消し、諦めずに最後まで取り組む姿が見られました。完成したプロフィール帳を7月に開催したCGK School Festival(学園祭)にて各階に掲示したことにより、「これ僕が書いたんだよ!」「大変だったけど頑張ったよ!」と誇らしげに家族に伝えている光景も見ることができました。この活動が子供たちの達成感に繋がったことを非常に嬉しく思います。
このTeachers' Interviewを終えたSkyさんは、今度は自分の立場に当てはめて「自分にとってのコミュニティとは何か」「その中での役割は何なのか」を考えるようになりました。コミュニティには大小関係なく、どのようなコミュニティの中にも人にはそれぞれ役割があることをこのインタビューの活動を通じて学んだ様子でした。
Roles and responsibilities within my community / 今いるコミュニティの中での僕、私の役割と責任
いよいよこのユニット(単元)も、まとめとなりました。最後は私たち全員がコミュニティの中でどのようにつながり、どのような役割や責任があるのかを子供たち自身が自由に表現をしていきます。何も描かれていない大きな段ボールを渡し、詳しい説明はせずにあえて『コミュニティ』という大きなテーマだけを伝えると、グループごとに「まずは何を描くのか」「誰がどこにどのくらいの大きさで描いていいのか」などを子供たちが話し合い始め、ここでさっそく培ったチームワークが見られました。みるみるうちに子供たちに馴染みがある桜木町・みなとみらい・関内エリアの絵が描かれていきます。
下書きが終わり、ペンで色を付けていく際も「わたしここ塗るから、こっちお願いね!」「ここは何色で塗る?」「みんなの名前を書いたらコミュニティっぽくなる?」と意見を出し合いながら色塗りを進めていました。中には「いらっしゃいませー!ペン屋さんです!」「青色のペンください!」「はいどうぞ!終わったら返してくださいね!」とペン屋さんも出店。ペンを貸し出して、戻ってきたペンを綺麗に片付ける係も、いつの間にか出来ていました。
宝探しや先生へのインタビュー活動を経験し、更には自分たちにとってのコミュニティを思い思いに段ボールに表現をしたSkyさんたちは、改めて「コミュニティとはなんだろう」といったお話をしています。みんなが段ボールに描いた絵の中にはCGKが描かれていました。「このCGKの中には色々な先生がいて、初等部やアフタースクールもあるし、色んなグループがあるね」「CGKだけでなくて、他にもみんなで描いた赤レンガ倉庫やランドマークタワーの中にも色んな人がいたり、仕事やお店があるね」と子供たちなりにコミュニティという概念を理解し、そこには役割や責任が生じていることをきちんと理解が出来ている様子でした。最後は一人ひとり頑張って完成させたCGKの先生たちのプロフィール帳とコミュニティの絵をみんなで見て周り、改めてこのユニット(単元)を最後まで取り組んだ達成感を味わったSkyクラスでした。
次回から子供たちはまた新たな探究の単元(UOI): “How the World Works” を学んでいきます。一体どのような活動を通じ、学びを深めていくのでしょうか。またその様子をお伝えいたしますので、どうぞお楽しみに!
著者プロフィール
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Maya - プリスクール・先生 (日本)
CGKインターナショナルスクール・プリスクール5歳児クラスの担任教師。
アメリカの大学の日本校でアジア研究学専攻。横浜のインターナショナル・プリスクールで3年間勤務(2歳児~5歳児の担任と主任業務を経験)の経験あり。