国際バカロレアIB UOIの国語(日本語)Vol.1 - CGKインターナショナルスクール小学生の授業紹介
CGKインターナショナルスクール初等部の国語(日本語)の授業では、光村図書出版の国語教科書を全学年で使用しています。
2年生での国語の授業例をあげて、当校の子供たちが国際バカロレアIBプログラムのUOIにてどのように国語力を培っているのかを紹介します。
今回2年生では、国際バカロレアIB PYPの教科の枠を超えたテーマ【Who we are: 私たちは誰なのか】に基づき、「文学は、個々の信念や価値観や文化を形作ることができる。」という中心的アイデア(central idea)にたどり着くことを目指して探究学習を行いました。
子供たちは主に「文化は何で構成されているのか?」「文学の役割とは?」「口承文学を聞いたり、書承文学を読んだりした際の、個々の受けとめ方は?」という問いかけを持ちながら、国語教科書の『いなばのしろうさぎ』や『お話のさくしゃになろう』の単元学習と紐づけて学習を進めました。
「文化」「価値観」「信念」について
子供たちは、「文化は何で構成されているのか?」という問いに対して、考えられる要素をマインドマップに出し合いました。それらを見ながら話し合いを重ね、最後には「文化とは人々によって作られ、伝えられ続けているもの。」という定義を自分たちの言葉で導き出すことができました。また、国や地域ごとだけでなく、一人ひとりの人間が違う文化を持つということにも気づくことができました。
次の学習では、文化を構成する要素の一つ「価値観 = Values」について探究しました。価値観の定義を認識し、一人ひとりが大切にする価値観について考えました。
自分と見つめ合いながら、自分が大切にする価値観を書き出し、それらに順位をつけました。IB PYPの教科の枠を超えたテーマ【Who we are: 私たちは誰なのか】に結びつく活動の一つとなりました。
子供たちからは、「優しさ」「責任感」「調べること」「考えること」「助け合い」「思いやり」「あきらめない」「挑戦」「勇気」「あいさつ」など様々な価値観が出てきました。
また、他の要素「信念 = Believes」についての探究では、まず初めに様々な写真を見て、一人ひとりの反応に耳を傾けました。ピエロ、算数の公式、野菜、ロケット、犬などの写真です。子供たちからは「怖い」「かわいい」「かっこいい」「嫌い」など様々な発言が聞かれました。
自分と他の人の反応を比較し、同じ対象物に対して感じることが違う理由について考え合いました。話し合いを通して、子供たちは、個々が育った環境や観たことのある映画や好きなものが、信念に関係していることに気づくことができました。
口承文学と書承文学の探究
教科書(上巻)「いなばのしろうさぎ」
文化は、伝承されていくものだと気づいた子供たちは、それらを伝える方法の一つであるお話や本に注目しました。そこで、教科書にある単元「いなばのしろうさぎ」の神話を聞いてみることにしました。「いなばのしろうさぎ」の話が生まれた鳥取県 淤岐ノ島(おきのしま)では、どうして、誰が、いつからこの話を語り続けてきたのか、について考えた子供たちは、辞書を引くなどをし、初めて『口承文学』という言葉を知ったり、日本の伝統的な言語文化に親しむ機会をもちました。
そして、口承文学と書承文学(=古事記のように書いて伝えられてきたもの)の特徴を比較し合い、それぞれのメリットとデメリットについて探究しました。
驚くことに、子供たちは「口承文学は、色々な人が教えてあげないと途中で文化がなくなってしまう。本が作られなくなる。」「口承文学は、文字がわからなくても楽しめる。」「書承文学は、耳が聞こえない人でも知ることができる。紙に書いて見せることができる。けれど、文字がわからないと読めない。」など様々な視点で気づいたことを書き出していました。そしてこの探究のまとめとして、「自分たちの役割は文学を伝えていくこと」という点にたどりつくことができました。
各国の民話・寓話・おとぎ話の探究
神話にふれた子供たちは、次に世界中の民話、寓話、おとぎ話についても探究しました。「ありときりぎりす」「金のがちょう」「こびとのくつや」「つるのおんがえし」など多くのイソップ物語やグリム童話を読み、伝えたかったことや話が作られた国について考えました。 また、おとぎ話の探究では、例えばディズニー作「リトルマーメイド」とアンデルセン作「にんぎょひめ」の比較を行い、年齢設定や伝えたかった価値観の違いに気づくことで、作られた国の文化がストーリーに大きく影響しているという考えにたどり着きました。そして、それらを読むことでその国々の文化が引き継がれていくことを改めて認識しました。
「これからの時代にずっと語り続けられるような話を作ろう。」
教科書(下巻)「お話のさくしゃになろう」
最後に、今回のIBのUOIのまとめ学習として、子供たちは教科書の単元「お話のさくしゃになろう」の学習と紐づけながら、自分が大切にする価値観(モラル)が伝わる寓話/おとぎ話を作りました。
UOIを通して様々な文学にふれてきた子供たちは、学んできたことや気づいてきたことを活かし、寓話とおとぎ話のそれぞれの特徴を理解した上で、どちらを作るのかも考えてから作成に取りかかりました。想像力を働かせながら、話に必要な要素や構造を自分たちで考えてオリジナルの話を書き上げました。
また、国語力の「書く」の観点では下記のことにも気をつけながら取り組みました。
- 「はじめ」「中」「終わり」の組み立てを考えて書く。
- 正しく段落をわける。
- 「は」「を」「へ」を正しく使う。
- 丸(。)・点(、)・かぎかっこ(「」)を正しく使う。
- 読む人に伝わるように、詳しく書く。
- 文章に書いてから、間違いがないかを確かめる習慣をつける。
様々な文学を探究する過程で学んだこと、気づいたことを活かしながら、個々のスピードで満足いくまで物語作りに没頭することができました。
書き上げた作品の発表では、発表者が伝えたかった価値観・モラルは何だったのかを考えながら、お互いが大切にする価値観、信念、発見を尊重することができている様子でした。
既習学習との関連付け
このUOIを学習後、月日が経った今でも、各々が今回学んだことと新しい学習を関連付けている様子が見受けられます。
例えば、新出漢字「語」の意味や使い方について話し合っていた際、1人の子供が「『口承文学を語り続けていく。』のような使い方ができる。」と発言しました。正しく「口承文学」の意味や役割を理解した上で、その言葉を使いこなせるようになっていました。
他には、俳句を作るUOI活動にて『七夕は 日本の文化 楽しいな』という作品を作った子供は、その俳句に込める思いとして「日本の文化を先の人に知らせたい。」と書き表していました。「文化」に関する知識や、日本人としての自分の役割を理解し続けられている様子が伺えました。
このように、日本語の国語授業において子供たちは、教科書の内容以上のものにまで視野を広げて既存学習やUOIと関連付けながら、「書く」「読む」「話す」「聞く」のスキルを培っています。
引き続き、子供一人ひとりの興味や関心を活かしながら、教科書の学習だけに縛られない、かつ各学年で培うべき知識や技能(※)を確実に習得していける授業づくりを心がけていきます。
※CGKでの国語授業では、文部科学省が提示する小学校学習指導要領に基づいて、各学年の目標に達することを目指しカリキュラムを組んでいます。
ブログ『国際バカロレアIB UOIの国語(日本語)Vol.2 - CGKインターナショナルスクール小学生の授業紹介』
ブログ『国際バカロレアIB UOIの国語(日本語)Vol.3 - CGKインターナショナルスクール小学生の授業紹介』
著者プロフィール
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Sayuri - 初等部・日本語国語教師 (日本)
CGKインターナショナルスクール初等部・国語教師。
Western Michigan大学大学院 Educational Technology学部にて修士号取得。
日本のICT教育や教育学部のカリキュラムを見直すため、専門分野の研究を行うかたわら、ドイツの出版社から研究論文の出版も。
Western Michigan大学にて2年の日本語指導と、ニューヨークの日本人学校にて5年の国語指導。