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国際バカロレアIB UOIの国語(日本語)Vol.3 - CGKインターナショナルスクール小学生の授業紹介

コラム 2024.07.22

CGKインターナショナルスクール初等部の国語の授業では、文部科学省の学習指導要領に沿いつつ、国際バカロレアIBプログラムの理念を取り入れたユニークな授業を展開しています。

今回は、4・5年生が取り組んだ「戦争」をテーマにしたUOIを紹介します。
この授業では、日本の国語教育の枠を超え、国際的な視点から歴史を学び、批判的思考力を養い、アートで感情を表現するなど、多岐にわたる活動を取り入れました。


セントラルアイデアとキーコンセプトに基づいた取り組み

  • 取り組んだ教科の枠を超えたテーマ:Where we are in place and time 私たちはどのような場所と時代にいるのか
  • 中心的アイデア(central idea):人々の暮らしと歴史を振り返ることは、私たちが他者、環境、そして自分自身と調和して生きるのに役立つ。
  • キーコンセプト:「視点」と「原因」

視点の多様性を理解する

子供たちは、「戦争」という複雑な歴史的事象を様々な角度から考察しました。

  • 個人の視点
    教科書単元「ひとつの花」「たずねびと」文学作品を通し、登場人物の立場から戦争を考えたり、言葉と抽象画を通じて、戦争に対する自身の感情や思いをアートで表現しました。
  • 多角的な視点
    日本だけでなく、他国の状況や見方も考え、学ぶ機会を持てるよう進めました。
  • 時代を超えた視点
    現代の目線で過去の出来事を見つめ直し、現在と未来について考える機会を持ちました。

これらのことに意識して子供たちと授業づくりを行い、一つの事象に対して多様な見方があることを学び、他者の立場や考えを尊重する姿勢を養いました。


原因を探る深い洞察

戦争の原因を多角的に探ることで、複雑な歴史的事象の背景を理解しました。
太平洋戦争の発生要因を多面的に分析し、各国の行動の背景にある理由を深く理解することで、過去の過ちを繰り返さないための洞察力を身につけました。


セントラルアイデアの実現に向けて

「人々の暮らしと歴史を振り返ることは、私たちが他者、環境、そして自分自身と調和して生きるのに役立つ」というセントラルアイデアの実現のため、授業中の話し合い活動では他者の意見や解釈(=視点)を尊重し、対話の練習を意識させて進めたり、過去の教訓(=原因)を基に、他者と過ごす日々にどう活かせるか、調和的なコミュニティづくりにどのように貢献できるかについて考える機会を持ちました。


学習の流れ

1. 戦争を描く物語の探究:3段階読解

授業では、4年生、5年生の国語教科書に掲載されている戦争に関する物語「ひとつの花」「たずねびと」を読み解きました。学習は3段階で進みました。

  1. 構造読み
    - 場面分け
    - 導入部、展開部、山場、終結部の認識
    - クライマックスの見極め
  2. 形象読み
    - 登場人物の確認と人物像の分析
    - 叙述の細かな表現から筆者の意図を読み取る
  3. 吟味読み
    - 本文から疑問点を出し合い、クラスで話し合う
    - 物語のクライマックスに関する深い議論

この過程を通じて、子供たちは物語の構造理解、批判的読解力、そして筆者の意図を読み取る力を養いました。特に、「ひとつの花」のクライマックス場面に関する議論では、子供たちの深い洞察力が見られました。例えば、お父さんが無言でコスモスを見つめる場面について、多様な解釈が子供たちから出されました。ある子は、これをゆみ子の「一つだけ。」という願いへの応答と捉え、別の子は、コスモスをゆみ子に重ね合わせ、父親の将来への思いを読み取りました。また、コスモスにゆみ子の成長への願いを込めているという解釈も出されました。

さらに、授業の終盤では、タイトルの「一つの花」に込められた深い意味について気づきを示す発言もありました。「コスモスとゆみ子が一つ」という解釈は、物語全体のテーマを鋭く捉えたものと言えるでしょう。

このように、子供たちは物語の構造を理解しつつ、細部の叙述に注意を払いながら読解を進め、自分たちの疑問に対する答えを深く考察する活動に真剣に取り組みました。この過程で、テキストを批判的に読む力や、作者の意図を読み取る能力が大きく向上したと言えます。


2. 多角的視野で戦争を探究:Student-led-learningによる報告書作成

つぎに、「戦争」をテーマとした探究学習に取り組みました。5年生の教科書単元「みんなが使いやすいデザイン」を参考として、子供たちが自らの疑問を探究しつつ報告書を作成しました。この報告書では、「事実」と「意見」を明確に区別することに重点が置かれました。こうした取り組みを通じて、子供たちは情報を客観的に分析し、効果的に伝達するスキルを磨きました。

この学習プロセスは、子供たち自身の素朴な疑問から始まり、多角的な視点を取り入れながら展開されました。子供たちからの疑問は、例えばこのようなものでした。

  • 「どうして女性は戦争に行かなかったのか?」
  • 「なぜ子供達は家族と別れなければいけなかったのか?」
  • 「なぜ、切符で洋服を買っていたのか?」
  • 「なぜ原爆を落とされたのは広島だったのか?」
  • 「他の国の子供たちも戦っていたのか?」
  • 「当時のアフリカ、南アメリカ、モンゴルの状況は?」
  • 「鉄よりいい金属はなかったのか?」

これらの疑問は、単に日本の歴史だけでなく、他国の状況や見方にも目を向けるきっかけとなりました。

また、調べていくうちに日本の地域ごとに被害の規模が違うことに気づき、気になる地域や県に絞って更に探究し出す子たちもいました。例えば、石川県は被害が少なかったことがわかり、そのことにとても興味をもち、石川県の空襲や石川県空襲計画書についてリサーチすることに決めたり、おばあちゃんが住んでいる大田区の被害について知りたくなり情報収集し出したりなど、全てのプロセスはStudent-led-learning環境にて取り組みました

探究する過程では、インターナショナルスクールの特性を活かし、日本語だけでなく英語のリソースも活用しました。これにより、バイアスのない情報収集、 多角的な視点の獲得、トランスランゲージ能力の向上も目指しました。

このプロジェクトで子供たちをサポートする際、特に注意を払ったのは、太平洋戦争の背景と原因について学ぶ中で、子供たちが偏った情報だけを鵜呑みにせず、戦争の事象を一方的に判断・批判しないようにすることでした。日本の視点だけでなく、国際的な視点から歴史を捉える力を養い、戦争の複雑な要因を多角的に考える機会を持てるよう見守りました。

この活動を通して、子供たちの批判的思考力レポート作成能力を養う総合的な学びを深めることができたと感じています。


3. フィールドトリップによる体験学習

東京都の昭和館への校外学習を実施し、子供たちは日本の戦中・戦後の暮らしや当時の人々の思いを直接学ぶ貴重な機会を得ました。この体験は、主に日本側の視点から、当時の厳しい生活状況を理解するのに役立ちました。

しかし、学びはここで終わりませんでした。事後学習では、より広い文脈で歴史を捉える試みがなされました。子供たちは以下のような問いを通じて、太平洋戦争の原因について再度理解を深めました。

  • なぜ日本がそのような困難な状況に陥ったのか
  • 日本が満州国を設立した原因は何か
  • 日中戦争の原因は何か
  • 物資が少なくなった日本はどのような対応をしたのか

この一連の学習プロセスにより、子供たちは歴史を多角的に見る重要性を理解し、単一の視点にとらわれない、よりバランスの取れた歴史観を養うことができました。


4. 芸術表現:言葉とアートで描く戦争の印象

学習の締めくくりとして、子供たちは戦争に対する複雑な感情を創造的に表現する機会を得ました。

この活動は以下のステップで進められました。

  1. 言語による表現

    戦争に対する感情や思いを、適切な形容詞と名詞を用いて言語化しました。この過程で、子供たちは自身の感情を的確に表現する語彙力を磨きました。子供たちからは、「恐ろしい原爆」「貧しい人々」「悲しい一人ぼっち」「辛い逃げ方」「赤い焼け野原」など様々な表現が出てきました。

  2. 視覚芸術への変換

    言語で表現した感情を、モダンアートの抽象画として視覚化しました。色彩、形、構図などを通じて、言葉では表現しきれない微妙な感情のニュアンスを表現することに挑戦しました。この活動では、クラス担任の協力のもと、クラスのUOIで学習してきたアートによる表現とも関連付けながら、各色が持つ印象や抽象画の表現方法について学びを深めました
    創造的なプロセスにおいて、一人一人がクレヨン、チョーク、ブラシ、絵の具、ティッシュペーパー、紙切れ、ローラー、泡立てた石鹸など違ったマテリアルや、作り出した色を工夫して使い、思い浮かべる情景をより良く表現しようと探究し、真剣に取り組みました。このプロジェクトでは、芸術表現を通じて戦争という複雑なテーマへの理解を深めると同時に、自己表現の新たな方法を発見することができました。

    完成後は、他の子供たちの作品と鑑賞し合ったり、友達から意見をもらったりすることで、同じテーマに対する多様な解釈や感情の表現方法があることを学び、お互いの感性や表現を尊重する様子も見られました。

この活動は、子供たちにとって、戦争という難しいテーマについて、自分の気持ちや考えを整理する機会ともなりました。また、感情の言語化能力、抽象的思考力、視覚的表現力、言語と芸術を融合させた総合的な表現力を育むことができました。

また、最後には、セントラルアイデア「人々の暮らしと歴史を振り返ることは、私たちが他者、環境、そして自分自身と調和して生きるのに役立つ」について振り返りました。学習を通じて得た知識をもとに、子供たちは「他者と共に生きるために大切にすべき価値観や態度、行動は何か」について考察し、文章にまとめました

下記のようなまとめが出ました。

  • 私は、人のことを肌の色や、家系で差別しない。
  • クラスで揉め事があれば、ルールに従うように言う。
  • いつでもしたいことをするのではなくて、人の意見を聞かないと戦争みたいになってしまう。
  • みんなが共有したほうが戦争が終わるかもしれない。
  • 生きていくには仲間や信じてくれる人、大切な人が必要。
  • 自分と他者と調和して生きるのに大切なことは、人の命が安全であること、なんでも欲しいからといって何でも無理矢理に取るのは違う。他人を傷つけないで自分で努力して獲得するほうが自分も他人も嬉しいし、もっと自分がやった成果が認められるし成果を感じられると思う。
  • いつでも自分がしたいことをするのではなくて、他の人の意見を聞かないと戦争みたいになってしまう。
  • 戦争を通して、相手の気持ちを分かり合うことの大切さを知った。

振り返り

単なる国語の物語文学習を超えて、社会・アートの教科学習も融合しながら、子供たちが将来、多様性を尊重し、平和で調和のとれた社会を創造する一員となるための基盤を築けるよう、このUOIは展開されました。

「視点」と「原因」という二つのキーコンセプトを軸に展開し、戦争について探究することで、グローバル社会で必要とされる批判的思考力と多角的な視野を養う学びの場となりました。

CGKインターナショナルスクールの国語授業では、日本の学習指導要領とIBの理念を融合させ、グローバル教育を実践しています。今後も、教科書学習に縛られることなく、各学年で培うべき知識や技能(※)を確実に習得できる授業づくりを目指します。

※CGKでの国語授業は、文部科学省の小学校学習指導要領にも基づき、各学年の目標達成を目指したカリキュラムを組んでいます。

著者プロフィール

Sayuri  -  初等部・日本語国語教師  (日本)JAPAN

CGKインターナショナルスクール初等部・国語教師。
Western Michigan大学大学院 Educational Technology学部にて修士号取得。
日本のICT教育や教育学部のカリキュラムを見直すため、専門分野の研究を行うかたわら、ドイツの出版社から研究論文の出版も。
Western Michigan大学にて2年の日本語指導と、ニューヨークの日本人学校にて5年の国語指導。

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